【世界のミンワから】第46回「牛飼いと裁判官」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

ある貧乏な男が、お金持ちの裁判官に牛飼いとして雇われました。
牛飼いは、やせ細った牛を一頭もっていました。その牛をいつも主人の牛と一緒に牧場に連れて行きました。

ある日のこと、どうしたことか、主人の牛と、牛飼いの牛が喧嘩を始めました。
そしてやせっぽちで、弱いはずの牛飼いの牛が主人の牛を突き殺してしまいました。

牛飼いは、主人の裁判官のところへ駆けつけました。
「ああ、お情け深い、旦那様、大変なことが起きました。どうか公平にお裁きください。」
「よろしい。話してみなさい。」
「じつは今日牧場で旦那様の牛が私の牛と喧嘩をしまして、旦那様の牛が私の牛を突き殺してしまいました。神様は罪を犯した牛にどんな罰をお下しになるのでしょう。」

「待て、待て。はじめから詳しく調べよう。私の牛はお前の牛をにらんだかね?」
「いいえ、旦那様。」

「わしの牛がとびかかったとき、お前の牛はモーと鳴いたかね?」
「はい、旦那様」

「では、神に誓って正直に言うのだぞ。お前の牛が、わしの牛を怒らせたのだろう。」
「そんなことはわかりません。旦那様、モーと言ったのがどんな訳か調べられませんよ。」
「それでは、どっちが悪かったのか、お前にはわからないのだな。」
「はい。旦那様。」

「どちらが悪かったのか、わからないのだとすれば、罰することもできない。獣を裁くことなどできるとおもうか?」
「まったくその通りでございます。旦那様、まったく公平にお裁きくださいました。ただ、あの…」

「なんだ、まだ用があるのか?」

「あの、今、思い出しのでございますが。私が考えちがいをしておりました。私の牛が旦那様の牛を殺してしまったのです。」
「なんだと。そうか、では、神がお前の牛にどんな罰をお下しになるか、本で調べよう。

「おや、旦那様。あなたの牛が罰を受けなくてよいのなら、私の牛もうけなくてもよろしいでしょう。獣を裁くことなどできるとお思いですか?」