【世界のミンワから】第42回「たにし王子」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

世の中の人たちから忘れてしまったような、寂しい村がありました。
そこにおじいさんとその息子の嫁さんが住んでいました。

おじいさんの息子は急に病気になって死んでしまったのです。
今は嫁さんから生まれてくる子供だけが楽しみでした。

やがて、子供が生まれました。
ところが、その子供というのが、人間の赤ん坊ではなくて、タニシだったのです。
あの田んぼにいるタニシでした。

あまりのことに、嫁さんは一日中タニシを見ては泣いていました。
それを見ておじいさんは
「そんなに悲しんで泣いてばかりいると、お前の体に悪いからいっそこのタニシは捨ててこよう。」
と言って、村はずれの田んぼに捨てに行きました。

「かわいい孫よ。お前が人の子であったらなぁ‥‥
どうか、タニシの仲間に入って、仲良く暮らしておくれ。」

おじいさんはこう言って、タニシをそっと田んぼに離してやりました。
こうして、タニシを捨てては来ましたが、二人の悲しみは少しもなくなりません。その晩は二人とも泣いて夜を明かしました。

あくる朝、ふと、気が付くと、嫁さんの枕元にタニシが這い上がっているではありませんか。
「まぁ、この子はどうしてここまで来たんでしょう。」
嫁さんはそう言ってタニシを抱きしめました。
遠い田んぼからのろい足で夜通し這ってきたに違いありません。
おじいさんも胸を打たれてはらはらと涙をこぼしました。

「母さん、僕をもうどこへも捨てないで。」
とふいに、タニシが口を聞きました。

「ああ、捨てないとも、捨てないとも。だけど、これから先、どうやってお前を育てていったらいいんだろうねぇ。」
「水がめのそばに置いてください。それだけでいいんですよ。」
そこでおじいさんとタニシのお母さんは息子を庭の水がめのそばに置きました。

ある日、おじいさんが、町へ出かけようとすると、
「おじいちゃん。僕も連れて行って。」
とタニシが言いました。
「お前みたいな足ののろい子を連れて歩けやしないよ。」
とおじいさんは言いました。

「おじいちゃんのかごのなかに入れてっておくれ。」
「なるほど。」
おじいさんはかごの中にタニシを入れて、こぼれ落ちないように、気を付けながら町へ出かけました。
町で買い物を済ませて、帰ろうとしたときです。
かごの中から、タニシが大声で言いました。

「おじいちゃん。あのぶち犬を買っておくれ。」
見るとそこは犬屋の前でした。
かわいい子犬がたくさんいます。
それなのに、タニシの欲しがっている、ぶち犬というのはできものだらけの痩せ犬です。
でもおじいさんはかわいい孫の言うままにその犬を買ってやりました。
「母さん、この犬は僕の昔からの友達です。これからは大臣様と呼んでください。」
タニシは得意そうに言いました。
「こいつが『大臣』だって」
おじいさんはびっくりして、聞き返しました。
「お前、生まれて間もないのに、昔からの友達だなんて。いったいどういうわけだい?」
母さんも首をかしげました。

「本当なんです。でも今はわけを話せません。『大臣』には水をちょっぴりやってくだされば、それでいいんです。」

タニシがあんまり不思議なことばかり言うので、おじいさんと母さんは目をまんまるくしてモノも言えません。