【世界のミンワから】第38回「力持ちのノミ」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

ある夏の暑い日でした。
牧場で働いている男が、町に住む主人のところへ、牛乳やチーズを運ぼうと思いました。

ロバを馬小屋から引き出して、支度を始めました。
まずロバの背中に敷き藁をしきました。
敷き藁の上に木の鞍を置き、鞍の上にきれをかけました。
腰帯をしめて、さて、今度は荷物を積む番になりました。

まず牛乳を入れた大きなツボを4つ、ロバの右と左に二つずつ、つけました。
それからヤギのチーズのかたまりを八つ持ってきて右と左に四つずつつけました。

「やれやれ、これで、積み終えた。」

男は汗を拭きながら、一息つきました。
ところがその時、大変なことを思いだしました。
主人のお嬢ちゃんとお坊ちゃんが泊りがけで遊びに来ていたのです。
この二人を送っていかなくてはいけません。

男は主人の子供たちを鞍の上で背中合わせで座らせました。
途中でケンカされたら困るからです。

これだけのことをすると、男はへとへとに疲れました。
お汗がだくだく流れました。
ロバも苦しそうに息をしました。

その時、どこからともなく、一匹のノミがやってきて、ぴょーんと男の袖に飛び上がりました。
それからノミはロバに飛び移って、きょろきょろ、辺りを見回しました。
それからロバの背中の柔らかな敷き藁の間にもぐりこみました。

「しめしめ。いい日影があったぞ。こう暑くってはかなわない。ちょいと昼寝でもするとしよう。」

さて、男とロバは町へ出発しました。太陽がジリジリ照り付けて焼けるような暑さです。
男は川から上がったように汗びっしょりになりました。

ロバはあんまり荷物が重いので座り込みそうになりました。
ロバの上で子供たちはぐったりしていました。

ところでノミはどうしたでしょう?
ノミはロバの背中の柔らかい敷き藁にもぐりこんで、まるでゆりかごに揺られているようにいい気持で眠っていました。

ノミが目を覚ました時、男がやっと町の主人の家へ、たどり着いた時でした。
もう日が暮れていました。
ノミは敷き藁から這い出してみて、驚きました。

「こりゃまたすごい荷物だ!どえらい荷物だ!」

ノミは急に自分がこれだけの荷物を運んできたような気がしてきました。
ノミは得意そうに叫びました。

「おーい、みんなこの俺様が担いできた荷物を見てくれ!ものすごい重さだぜ。たいした力持ちだろう。」

ノミはウキウキして、男の袖に飛び移りました。

男は主人の子供たちをおろしてから、荷物を次々とおろしました。
それからロバの帯をゆるめ、鞍をはずして、ロバの体をこすってやりました。
それを見たノミは腹を立てました。

(ちぇ、なんてこった。俺様のことは放っておいてロバのとんまばっかり、チヤホヤしていやがる。ロバのやつろくなこともできないくせに、いい気になってるな。よーしこいつをつけてやれ)

ノミはぴょーんとロバの鼻面に飛び移って、嫌って言うほど噛みつきました。
驚いたのはロバです。
いきなり暴れ出して、そばの牛乳壺をひっくり返してしまいました。
牛乳はあっという間に流れ出しました。

男はカッとなって、ロバの鼻面を殴りつけました。

ノミはどうしたかって?

そうです。力持ちのノミは叩き潰されて、影も形もなくなってしまいました。
できもしないことを威張ったりしたからですね。