【世界のミンワから】第33回「三羽のカラス」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

昔、心の優しい少女がいました。
少女はお父さんが笑ったのを一度も見たことがありませんでした。
いつも考え込んだり、涙を流してばかりいるのでした。
少女は不思議に思って、ある日
「お父さん、何がそんなに心配なの?」
と聞いてみました。
するとお父さんは、
「じつはお前には3人の兄さんがいるのだがね。ある日私が3人をしかりつけたんだよ。」

「その時、ひどく癪に触っていたので、3人に魔法をかけてカラスにしてしまった。
けれども、私はその魔法を解くことができないんだよ。」
少女はこの話を聞いてからというもの、何とかして兄さんたちを、助けてあげたい、と思っていました。そしてとうとう兄さんたちを助けに行くことにしました。

ある朝早く、少女は誰にも気づかれないように、そっとうちを出ていきました。
日が暮れるころ、少女は森にやってきました。
森には仲良しの妖精が住んでいました。
妖精は木の茂った森の奥の家に少女を連れて行って泊めてくれました。

あくる朝、少女はカラスになった兄さんたちのことを話しました。すると妖精は
「野原を半分ほど行くと、美しい三本の木が立っているよ。そこへ行ってごらん。」
と言って、森のはずれまで少女を送ってくれました。

少女は妖精と別れて、一人で歩いていきました。
すると妖精の言った通り、野原の真ん中に三本の美しい木が立っていました。
どの木の上にもカラスが一羽ずつとまっていました。
少女が近づいていくと、三羽のカラスは気から舞い降りてきて、少女の肩や手にとまりました。そしてうれしそうに
「ああ、かわいい妹よ、よく来てくれたねえ。僕たちを助けに来てくれたんだね。」
と言いました。

「あなた方がお兄さんなのね。ああ神様ありがとうございました。でもどうやったら魔法がとけるのでしょう?」
と少女は言いました。

「僕たちを救う方法はたった一つしかない。それはとても難しいことなんだよ。やさしい妹に苦しい思いをさせるわけにはいかない。」
と一羽のカラスが言いました。

「そのたった一つの方法を教えてください。どんなにつらくても、苦しくても私は平気です。」
と妹は答えました。するともう一羽のカラスが言いました。

「かわいい妹。そのためには、お前はこれから3年の間一言も口をきいてはならないんだよ。たった一言でも口をきけば、僕たちは死ぬまでカラスのままでいなければならないんだよ。」

「そのうえ、二度と僕たちのところへ来ることもできなくなるんだよ。」
と三番目のカラスが言い添えました。

「それでもかまいません。兄さんたちのためにすることですもの。私、これからは一言も口をききません。」
と妹は答えました。
妹はすぐに家へ戻りました。

あくる朝、妹はまた、妖精の住んでいる森へと行きました。けれどもこの前泊めてもらった家はありませんでした。その代わり、立派なお城がたっていました。

その時お城から借りに行く人たちが出てきました。
先頭にはお城の王子様がいました。
王子は少女の姿を見ると馬を近づけて、
「あなたはどこの国から来たんですか?ここで何をしているんですか?」
とたずねました。
けれども妹は口をきくわけにはいきません。
ただ、黙って、お辞儀をしました。
王子は少女があまりに美しいのでぼんやりと見とれていました。
しばらくしてから王子は
「あなたは口をきくことができないけれども、その代わりに神様はあなたに美しさをお与えになった。私と一緒にいらっしゃい。きっといいことがありますから。」
と言いました。

妹は黙ったまま、
「喜んでまいります。」
という身振りをして見せました。
王子はお母さんにお妃のところに少女を連れていきました。

少女は黙ってお辞儀をしました。
「この少女をどこから連れてきたのですか?」
と王子に尋ねました。
王子は森の中で会ったことを話しました。
するとお妃は
「口がきけないようですね。こんな娘をどうして連れてきたのですか?」
と聞きました。

「お母さま、もちろん私のお嫁さんにするためです。お母さま、この少女をよくご覧ください。口はきけませんが、こんなに美しいのです。素晴らしい娘ではありませんか。」
と王子はこたえました。
これを聞くとお妃はだまってしまいました。
けれどもお妃は心の中で、その美しい少女を憎らしく思いました。
そしてなんとかして、意地悪をしてやろうと考えました。

次の日に、王子は結婚式をあげました。結婚式が終わるか終わらないうちに、皇帝からお使いがきて、王子は戦争に行くことになりました。

王子は、召使を呼んで、若いお妃の面倒をよく見るようにと言いつけてから出かけました。

ところが、王子がお城をでると、すぐにお母さんお妃は召使にお金をやって、お嫁さんお妃をいじめる相談をしました。

一年たちました。
若いお妃はかわいらしい男の子を産みました。
お妃は召使に言いつけて、男の子を森へ捨ててこさせました。
まもなく王子様が戦争の合間に帰ってきました。するとお妃は、
「お前のお嫁さんは魔女ですよ。あの人は死んだ子供を産みましたよ。」
と言いました。
王子は召使を呼んで、尋ねました。
すると召使は、
「はい。その通りでございます。赤ちゃんは森の中に埋めておきました。」
と答えました。

王子はまた戦争に出かけていきました。
二年目が過ぎました。
若いお妃は二人目の子供を産みました。
また召使が赤ん坊を森へ連れて行って捨ててきました。
王子が帰ってくると、お母さんお妃は
「あなたの若い奥さんは本当に恐ろしい人ですよ。今度は悪魔の子を産みました。とても人間の子ではありません。毛のもじゃもじゃはえたケダモノでしたよ。」
と言いました。召使も
「はい。黒いイヌでございました。私が森に埋めて参りました。」
と話しました。王子は腹を立て、若いお妃をしかりつけました。
「お前は女中たちと一緒に働いていろ。」
こういって、王子はまた戦争に行きました。

また1年過ぎました。
若いお妃は三人目の子供を産みました。
そして赤ん坊はまた召使が森へ行って捨ててきました。

戦争が終わって、王子が帰ってきました。
お母さんのお妃は、
「あなたの奥さんを生かしておいてはいけません。三番目の子供は恐ろしい化け物でしたよ。」
と言いました。
すると召使も
「はい。窓から森へ、飛んで行ってしまいました。」
と言いました。
それを聞くと王子は、
「若いお妃は魔女だから牢屋にいれろ。」
と言いつけました。

次の日、若いお妃は火あぶりにされることになりました。
お城の庭に薪が高く積まれ、いよいよ火をつけるばかりになりました。
若いお妃が庭にひきづり出されてきました。王子は
「この若い魔女を火あぶりにする。誰も文句はないだろうな。」
と言って、みんなを見渡しました。
誰一人何も言いませんでした。
若いお妃は一生懸命、何かを王子に伝えようとしました。

その時、ふいに遠くから角笛(つのぶえ)の音が聞こえてきました。
見ると雪のように白い馬にまたがった三人の騎士が風邪よりも早くお城めがけてきます。

三人の騎士は銀の鎧を着、カラスのワッペンをつけた楯を持っています。そしてどの騎士も美しい男の子をだいています。

うそつきで欲張りの召使が薪の山のそばに立っていました。
三人の騎士はお城の庭に飛び込んでくるなり、この召使の心臓を槍で突き刺してしまいました。

「ああ、間に合ってよかった。やさしい妹よ。僕たちだよ。お前の兄さんだよ。たった今約束の三年が過ぎたのだ。お前のおかげで私たちはもとの姿に戻ることができた。お礼を言うよ」

「この三人の子供たちはお前の息子たちだ、森へ捨てられていたのを、あの妖精が大事に育ててくれたのだよ。」

といって、三人の騎士は腕に抱えている子供を妹に渡しました。
お城の庭で、人々が喜びの声を上げました。王子も本当のことを知って若いお妃を心から愛するようになりました。
意地の悪いお母さんお妃は誰にも気づかれないうちに、こっそりお城から出ていきました。

三人の騎士たちが家に帰れば、お父さんはどんなに喜ぶでしょう。お父さんもこれからはニコニコして暮らすことでしょう。