【世界のミンワから】第32回「ワタの花と妖精」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

むかしむかし、アメリカの沼地に、一人の妖精がいました。
この妖精は、糸をつむぐ名人でした。妖精の糸車は、朝から晩までくるくる回っていました。

妖精のつむいだ糸は、小さなクモの糸よりも細くてしなやかで、艶がありました。

この糸を使うと、それはそれは美しい布ができました。
ですから、妖精の女王が舞踏会を開くときにはみんながこの素晴らしい糸を注文しにやってくるのでした。

妖精の糸車は花にとびこんだハチの動かす羽よりも早く回りました。妖精の使っている針は、おじさんのクマンバチの針でした。

クマンバチはいつもぶつぶつ、文句ばかりいっていたので、みんなから嫌われていました。けれども、おじさんは死ぬときに妖精を呼んで
「私が死んだら針をぬきとって、お前が使っておくれ。そしてなにか役に立つことをしておくれ。」といったのです。

妖精の住む沼地には、クマンバチよりももっと恐ろしい動物がいました。
それは大グモでした。その大きいことといったら小鳥くらいもありました。

大グモのからだは赤と黄のだんだら模様に染まっていました。

この大グモも糸をつむいでいました。大グモの糸は銀色に光ってなかなかきれいでした。
けれども、妖精の細いしなやかな糸とくらべるとまるで綱のように見えました。
大グモは自分より美しい糸を作る妖精が憎らしくてなりませんでした。
ある日、妖精は糸をつむぎながら、ふと上を見上げました。
大グモが頭の上におりてきて今にも自分をひとのみにしようとしています。
妖精は、糸車と針を抱えて逃げ出しました。
大グモは長い足をのばして追いかけてきます。妖精は穴から頭を出しているネズミを見つけました。
「ネズミさん、ネズミさん。いれてちょうだい。大グモに追いかけられているんです。」
と妖精は走りながら叫びました。

ネズミは大グモと聞いて震え上がりました。慌てて頭を引っ込めたかと思うとパタンと戸を閉めてしまいました。妖精は走り続けました。
まもなく、カエルを見つけました。
「カエルさん、カエルさん。たすけてちょうだい。大グモに追いかけられてるんです。」
と、妖精は叫びました。けれどもカエルは知らん顔をしていました。
かわいそうに、妖精はもう息がきれて死んでしまいそうでした。
そのとき、ホタルがちょうちんをつけてやってきました。

「ホタルさん、おねがいです。助けてちょうだい。大グモに追いかけられているんです。」
すると、ホタルは
「わたしのちょうちんについていらっしゃい。すぐにいいところへ連れて行ってあげますよ」
と、言いました。ホタルの後について、妖精は美しい、モモ色の花の咲いている、野原へ来ました。
「さあ、早くあのきれいな花の中へとびこみなさい。」
とホタルは言いました。妖精はへとへとにくたびれていましたがそれでもありったけの力を振り絞って花をめがけて飛び上がりました。

こうして、妖精は糸車と針をしっかり握ったまま花の中に隠れることができました。

ところがすぐに、大グモが追いつきました。
大グモはモモ色の花の一番外側の花びらにしがみつきました。
妖精はクマンバチの針を握って、大グモの足をチクンと刺しました。

大グモは花びらと一緒に地べたに落ちました。
モモ色の花のまわり、糸をはりめぐらして、妖精が出てくるのを待つことにしました。

次の日も大グモはその糸の上で妖精が出てくるのを待ちました。
ところがその日1日中待っても妖精は出てきませんでした。

次の日も、また次の日も大グモは待ちました。
そのうちに花びらが1枚1枚落ち始めました。
大グモはいよいよ妖精が食べられるぞと思って舌なめずりをしながら花に一歩近づきました。
おしまいの花びらが落ちました。
それでも妖精は出てきません。

大グモは騙されたと知って、カンカンに怒りました。
あんまり癪に障ったので、つい自分の体をかじってしまいました。
そしてついに死にました。

花の中に飛び込んだ妖精は花の奥にある種の袋の中に隠れていたのです。
そしてやっぱり、糸車を忙しく回していました。

三日たつと、妖精は種の袋から飛び出しました。
種の袋が空いた時、そこから細くてしなやかな糸があふれ出ました。
妖精の作った糸でした。
糸は種の袋から房になってぶら下がりました。

やがて人間がやってきて、妖精のきれいな糸を持って帰りました。
妖精はモモ色の花がとても気に入りました。

それからはずっとモモ色の花の中で糸車を回しています。

今でもワタの花の中には妖精がいて、糸を紡いでいるんですよ。