【世界のミンワから】第30回「オオカミとロバ」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

一匹のオオカミがお腹を空かせて森の中をうろついていました。
そこへロバが通りかかりました。

「しめ。しめ。ご馳走にありつけるぞ。」
オオカミは舌なめずりをしながら、ロバを呼び止めました。

「おい。おい。お前はどこから来た?」

「村から来ました。」

「そりゃけっこう。いいところへ来てくれた。俺はもう腹ペコだ。さあ、お前を食ってやろう。」
ロバは大きな耳をブルブル震わせて

「ああ、お願いです。オオカミさん。それだけは許してください。」
と頼みました。

「だめだ。俺は腹ペコだぞ。」

「ねぇ、オオカミの旦那。私みたいなものを召し上がったって、じきにお腹がすいてしまいます。それよりも私を助けて下さったら、1年分のお肉を手に入れてあげようと思いますが。」

「ふん!どうやって手に入れる?」

「つまり私が、オオカミの旦那をお乗せして牧場へ案内するんです。うまそうな羊がたんといるんですよ。まるまると太ったやつばかり。」
「そうだ子羊もいますよ。若くて柔らかいのが。それを好きなだけ召し上がれるじゃありませんか?」
オオカミはロバの誘いが気に入りました。
ロバを食べてしまうより、ヒツジのいる牧場に案内させる方がいいに決まっています。それに旦那なんて呼ばれたのも生まれて初めてです。

オオカミは本当に自分が偉い旦那になったようにいい気持になってきました。

「ふーん、そういうことなら、乗ってやってもいい。だが、揺れないように平らな道を静かに行くんだぞ。」
オオカミはもったいぶって言いました。

「ご心配なく、オオカミの旦那、しずかに、しずかにお連れしますよ。」

オオカミはロバの背中によじ登り、ロバの長い耳を掴みました。
ロバはオオカミが揺れないようにゆっくりと歩きだしました。

オオカミはロバの背中で得意そうにそっくり返っていました。
ところがいつまで経ってもヒツジの牧場につきそうにありません。

「やいやい!」ロバ、ヒツジはいったいどこにいるんだ?!」

「もうすぐですよ。オオカミの旦那。」
そう答えるとロバは少し足を速めました。
しばらくするとオオカミはまた尋ねました。

「おい、まだつかないのか?」

「もうすぐです。じゃあおいしいヒツジが早く召し上がれるように少し急ぎますよ。」
ロバはいきなりものすごい速さで駆けだしました。

オオカミはやっとのことでロバの背中にしがみついていました。

ところが、ロバが走りついたのは、ヒツジのいる牧場ではなくて村だったのです。村の中をロバはオオカミを乗せて駆け回りました。

そして精いっぱいの声をはりあげて、
「オオカミだあ、オオカミがきたぞう。」
とふれ回りました。

声を聞きつけた村人たちは手に手にこん棒やくわを握って家から飛び出してきました。

「お前だな、村のヒツジを狙うやつは。もう逃がさんぞ!」

人々は口々に怒鳴りつけました。

あっちの庭からもこっちの庭からもイヌが走り出してきました。
ワンワン吠えたてながら、オオカミめがけて、とびかかりました。

オオカミは無我夢中で、ロバから飛び降りすると命からがら逃げました。
(ああ、俺はバカだった。俺のおじいさんは威張らないオオカミだった。親父も威張らないオオカミだった。二人ともいつも歩いていて他人の背中になんか乗らなかった。

それなのに俺はいい気になって、ロバに乗ったのさ。おかげで飛んだ目にあってしまった。もう二度と、旦那なんて呼ばれたくはない。ロバになんか乗るもんじゃない。