【世界のミンワから】第29回「魔法の笛」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

むかし、むかし、たくさんのヤギを飼っているおじいさんがいました。

おじいさんはヤギの世話をさせるために、一人の男の子を雇いました。
その子は不思議な魔法の笛を持っていました。

不思議も不思議

大変な笛で、男の子がその笛を吹き始めると、みんな踊り出して、倒れるまで踊り続けるというのです。

さて、おじいさんは男の子にヤギを森へ連れて行かせました。

「笛なんか吹いていないで、しっかりヤギに食べさせるんだぞ。」
おじいさんはそういって、男の子を送り出しました。
日が暮れると、男の子はヤギを追って、帰ってきました。
迎えに出たおじいさんはびっくりしていました。

「どうしたんだ。見ろ、ヤギたちはへとへとになっている。いったい何を食べさせたんだ?」

「おじいさん。おいしい若木の枝をたっぷり食べさせましたよ。」
と男の子は答えました。
次の日もその次の日も同じヤギはますます痩せていきました。

おじいさんはもう、心配で心配でなりません。
そこである日こっそりと男の子の後をつけていきました。
そして藪の陰に隠れて覗いていると、男の子は若木の枝をたくさん切ってヤギたちにやりました。ヤギたちはおいしそうに音を立てて食べ始めました。
すると男の子は切り株に腰をかけて笛を取り出しました。
笛の根が響いてくると、ヤギたちは食べていた小枝を放り出して踊り始めました。

藪の陰に隠れていたおじいさんのところにも笛の音が聞こえてきました。おじいさんも我慢ができなくなりました。
手をふり、足をあげて、踊り出しました。
野ばらの棘に引っかかってたちまち着物がボロボロになりました。
おじいさんは泣き声をあげました。

「やめてくれ、やめてくれ。」
「やめたくても、笛が黙っていません。」
と男の子が言いました。
おじいさんもヤギも踊り続けました。
うちでは、おばあさんがおじいさんの帰りを待っていました。
おばあさんはとうとう待ちきれなくなって、
「ちょっと見に行ってこようかね?」
と行って森へ出かけていきました。

見ると男の子が笛を吹きヤギもおじいさんも踊っています。
「まあ、あんなところで踊ったりして。」
おばあさんは叫びました。
けれども笛の音はいっそう高く響きました。
おばあさんも手をふり、足をあげて踊り出しました。

待っても待ってもおじいさんとおばあさんは帰ってきません。
今度は息子が見に行きました。
男の子が笛を吹いて、ヤギが飛び跳ね、おじいさんもおばあさんも踊っています。息子は大声で、
「あんなところで、踊りを踊っている。」
と叫びました。
けれども笛の音はもっともっと高く響きました。
息子も我慢できなくなり、踊り出しました。

おじいさんもおばあさんも息子も帰ってきません。
今度はお嫁さんが見に行きました。
そして……お嫁さんも踊り出しました。

うちでは、おじいさんの孫たちがみんなの帰りを待っていました。
けれどもおじいさんも、おばあさんも、お父さんも、お母さんも帰ってきません。とうとう、子供たちは森へ行ってみることにしました。
見ると、男の子が笛を吹いて、その周りもヤギもおじいさんもおばあさんもお父さんもお母さんも踊っています。

「やあ、楽しそうだ。僕たちも踊ろうよ。」
おじいさんも孫も踊りの輪の中に飛び込みました。
やがて日が暮れると、みんなは踊りながら、村へ帰りました。

男の子の笛の音が村中に響きました。
それを聞いた、村の人たちを手足もひとりでに動き出しました。
とうとう村中が大きな輪になって、踊り出しました。
人間も牛も馬もネコも鶏も。

朝から晩まで、晩から朝までいつまでもいつまでもまだ踊り続けていますとさ。