【世界のミンワから】第28回「梨売り仙人」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

1人のお百姓の男が車にどっさり梨を積んで、町へ売りに行きました。
「さぁ!うまい梨だよ。」
「私におくれ。」
「私にも、おくれ。」
と人々は寄ってきて買いました。

そこへ汚れた衣を着たお坊さんがやってきました。
喉がカラカラのお坊さんは、
「ひとつ梨を恵んでは下さらんか?」
と頼みました。

「だめ。だめ。」
男は顔をしかめ、首を振って、
「じゃまだ。はやく行きな。」
と、怒鳴りました。

見ていた人たちは、旅のお坊さんを気の毒に思いました。
お金を出し合って、梨を一つ買い、お坊さんにあげました。

「ありがとう。ありがとう。」
お坊さんはお礼を言って梨を食べました。
手に種が残りました。

お坊さんはその種を地面に埋め、
「誰か、水を持ってきておくれ。」
と言いました。

誰かが、手桶に水を汲んできました。お坊さんが水をかけると、
「ありゃりゃ」
すぐ土から小さな芽が出たのです。

みんな不思議に思って、見ていると、その芽はみるみる大きくなり、あっという間に木になって、白いきれいな花が咲きました。

その花もヒラヒラ散ってあとに大きな実がなりました。
枝いっぱい
見事な梨の実

「わあ、これはこれは…。」
みんな目を見張らずにはいられません。
「さあさあみんな遠慮なく食べておくれ。」

お坊さんは梨をむしって、見物人たちに惜しげもなく分けてやりました。
「すみません。すみません。」
そう言いながら
「でもこれ本当の梨かな…。」
人々は不思議そうな顔をしながら、もらった梨を食べてみました。
「やあ!うまい!」
甘い汁がポタポタ流れて、間違いなく本当の梨です。
「素晴らしい。魔法の梨の木だ。」
みんな口々に言いました。

梨の実がなくなると、お坊さんは鉈(なた)を取り出して、カチンカチン、木を伐りました。木はすぐ伐り倒されました。

「やれやれ一汗かいちゃったな。」
そんなことを言いながら、切った梨を葉っぱのついたまま引きずるように担いでいきました。

その姿は、すぐ街角に見えなくなりました。
みんな夢でも見ているようなあっという間の出来事でした。

梨売りのお百姓の男もあまりの不思議に見物人の後ろから、首を伸ばして商売のことも忘れ、ぽかんとして見ていました。

お坊さんが行ってしまってから、はっとしたように、自分の車の方を振り返ると
「うわあ…」
びっくり仰天。
車の上には、一つの梨もなくなって空っぽです。
欲張り男の開いた口が塞がりません。

「さてはさては、さっきの梨は、みんなわしの梨だったに違いない。まんまと魔法でだまし取られたか。」
男は悔しがって地団太を踏みました。

「あはははは。」
みんな笑いました。
見ると、車のかじぼうが片っぽなくなっています。
カチンカチンと鉈で切り取った後はありました。

「よし、償いをしてもらわなくちゃあ。まだ遠くへは行くまい。」

男はお坊さんの行った方へ追いかけていきました。
町の曲がり角までくると、切り取った車のかじぼうが転がっているばかりです。
「ああ、これが梨の木になっていたんだな。」
男はがっかり。
お坊さんはどこへ行ったのか、影も形もありませんでした。