【世界のミンワから】第23回「七人先のおやじさま」

このコラムについて

世界は物語であふれています。面白い話もあればつまらない話もあり、学びがある話もあれば、全く何のためにもならない話もあります。
そんな世界各地に伝わるミンワを紹介していきます。きっと何かが感じられるはずです。

昔、ある旅人が日の暮れたころに一軒の立派な百姓家にたどり着きました。
それは堂々としたお屋敷で、構えは小さいお城のようでした。

「ここならゆっくり泊めてもらえるだろう」
と旅人は考えて、木戸を通って入りました。
すると、木戸のそばで、白いひげをはやしたおじいさんが薪を割っていました。

「こんばんは。おやじさま」
と旅人があいさつしました。

「一晩、泊めていただけませんか?」

「わしはこの家のおやじでない」
とおじいさんが言いました。

「台所へ行って、わしの親父殿に話してごらん」

旅人は台所に行きました。
台所にはもっと年をとったおじいさんがいて、囲炉裏の前に膝をついて火を吹いていました。

「こんばんは。おやじさま。一晩泊めていただけませんか?」
と旅人が言いました。
するとそのおじいさんは、
「わしはこの家のおやじではない、奥に行ってわしのおやじどのに話してごらん。食堂のテーブルについているよ」
そこで旅人は食堂に行って、テーブルを前にして座っている人に話しかけました。
それはさっきの二人よりずっとおじいさんで、ブルブル身体を震わせ、カチカチ歯を鳴らしながら、子供のように大きな本を読んでいました。

「こんばんは。おやじさま。一晩泊めていただけませんか?」

「わしはこの家のおやじではない。奥の椅子に腰かけているわしのおやじどのに話してごらん」
とそのおじいさんは身体を震わせ、歯を鳴らしながら言いました。

そこで旅人は奥へ行って、深い椅子に腰かけた人に会いました。
その人は一心にパイプを吸おうとしていましたが、身体が縮まって、手が震えるのでパイプを握っていられませんでした。

「こんばんは。おやじさま。一晩泊めていただけませんか?」

「わしはこの家のおやじではない。だがベッドに寝ているわしのおやじどのに話してごらん」
と縮まったおじいさんは言いました。

旅人がベッドに行きますと、生きているしるしと言えば、大きな目ばかりのとても年とったおじいさんが寝ていました。

「こんばんは。おやじどの。一晩泊めていただけませんか?」

「わしはこの家のおやじではない。ゆりかごに寝ているわしのおやじどのに話してごらん。」
と目の大きなおじいさんが言いました。

さて旅人がゆりかごのあるところに行きますと、その中にあかんぼほどに縮まった大変な年寄りがいて、ようやく生きているのがわかるのは、ときどき喉をゼイゼイならすためでした。

「こんばんは。おやじさま。一晩泊めていただけませんか?」

するとだいぶ経って返事がきました。
返事は長くかかりました。
それはやはり自分がこの家のおやじではないということで、
「だがな…わしのおやじどのに、話してごらん。おやじどのは壁にかけた角(つの)の中にござるでな」
というのでした。

旅人は壁の上を見上げました。
そしてやっと天井からさげてある大きな角(つの)を見つけますと、はじめはその中に人がいるとは思えませんでした。
何かモヤモヤと薄黒いものがあって、よく見ると小さな人の顔でした。
旅人はびっくりして、大声をあげました。

「こんばんは。おやじさま。一晩泊めていただけませんか?」

すると子ネズミのようなかすかな声でようやく聞きとれたのは、こうでした。

「よろしい」

それからテーブルには山盛りのご馳走が並び、お酒も次々に出て、旅人はお腹がいっぱいになると、柔らかいベッドに寝て、温かいトナカイの皮を布団にかけてもらいました。
旅人はこの家の本当のおやじどのに会えて、こんなにもありがたいことはないと、喜んで、楽々一晩、泊めてもらいました。