あの背中を追って-第13回

このコラムについて

ミンワとは泥や失敗やこっぱずかしさ、
カサブタやひだひだの一杯ついた本当の物語。
創業や商品開発、危機的状況を乗り越えるたびに新しく生まれています。
ミンワの新作は現代の企業における新しいミンワを紹介していきます。

毎週木曜日配信のミンワの新作。株式会社ジースタイラス「あの背中を追って」をお届けします。

第五章 スタッフの裏切り

逆求人は、赤字だったが何とか開催した。参加者の中には、物足りなさを感じた人もいたと思う。だが、中小企業が採用に困っているのは改めて感じた。ニーズがあるんだから、この方向で間違いない。とにかく事業として形にしなくては。僕のなかにやめる選択肢はなかった。
 逆求人の二回目は、幸先がよかった。消費者金融へ営業に行くと、百万円をポンと出してくれた。それで味を占めて値段を上げると、今度は売りにくくなってしまった。最終的にはかなり値段を下げて十五社ほどを集め、ようやく少しだけ黒字となった。

 三回目は、メンバーを集め直して、一年前から準備をすることにした。以前描いた事業計画書のように、いずれは利益が出ると信じていた。実際、少しずつよくなっている。
 金額も綿密に詰め、メンバーと手分けして営業をした。
 僕は信じている。この就職活動方法は、今までにないものだ。学生だからといって、なぜ他の学生と横並びに比べられ、「選ばれ」なければならないのか。会社のことだって、入る前にわかるわけはない。社長や人事の話だけで「入りたい」と思っても、「想像と違う」なんてことは多い。また、よくわからないイメージで「入りたい」と思ったからと言って、なぜ頭を下げるようにして入れてもらわなくてはいけないのだ。
 企業から見たって、ウェブのプラットフォームに高いお金を出して掲載し、学生に媚を売るようにして「見つけてもらう」「選んでもらう」ことはナンセンスではないか。自分の考えを述べられる学生と出会える場所に行き、自社に合う人を採用した方がずっといい。
 そうやって学生や企業に説明していくうち、事業の正しさを確信していった。この新しい採用方法は、メディアにも注目されるのではないだろうか。
 僕たちは、プレスリリースを配信することにした。さまざまな媒体に、手当たり次第メールを出した。
 目論見は当たった。百媒体ほどから取材を受けた。開催日には、新聞やテレビの取材が来て、インタビューされた。僕は有頂天になった。
 逆求人は黒字になったが、他にもいろいろなイベント活動をしていた。逆求人以外は収支を気にしておらず、気が付いたら借金が三百万円ほどにふくらんでいた。

 イベントが大成功した数日後、借金取りを逃れるために上野公園に行く。ベンチに腰掛け、今夜はここで過ごそうと思った。
 寝ころんで月を見上げた。数年前に読んだ本のノンフィクション作家も、こうして野宿をして夜空を見上げていたのだろうか。
 あの人ほど危ない目にはあっていないけれど、僕は社会問題と真正面からぶつかっている。学生や中小企業の現場の意見を聞いて、課題を解消すべく動いているのだ。メディアを始め、大人や事業家も認めてくれている。
 毎日お金の計算をするのは大変だし、こうして外で寝るのはつらいけれど、事業がよくなればいずれ返せる。
 イベントの大成功を思い返し、僕は目をつむった。

文 栃尾江美
絵 山本麻央