あの背中を追って-第14回

このコラムについて

ミンワとは泥や失敗やこっぱずかしさ、
カサブタやひだひだの一杯ついた本当の物語。
創業や商品開発、危機的状況を乗り越えるたびに新しく生まれています。
ミンワの新作は現代の企業における新しいミンワを紹介していきます。

毎週木曜日配信のミンワの新作。株式会社ジースタイラス「あの背中を追って」をお届けします。

第六章 リーマンショックによる大不況

大学を六年かけて卒業した僕は、知り合いの経営者のアドバイスを受けてリクルートに就職した。もともと誰かに雇われる気はなかったものの、まずは、「ちゃんとしたビジネス」を経験した方がいいと言われたからだ。営業として働きながら、借金を返し、事業のための資金も貯めた。

 二年目からオフィスを兼ねた部屋へ越し、会社員として働きながら株式会社ジースタイラスを作った。逆求人を事業とする会社。仲間とサイト作りやマーケティングからスタートした。
 リクルートを退社したあと、本格的に事業をスタート。初めから、恐れるものは何もなかった。瞬く間に成長し、六年目には従業員が二十人ほどになった。
 そんな折、会社を襲ったのがリーマンショックだった。

 僕は、信頼する会社のCFOである水野さんのもとを訪れていた。
 今、会社にはひと月に約二千万円の支出がある。それなのに、売り上げがほぼ立っていない。リーマンショック以来、クライアントが採用にコストを掛けられなくなったのだ。倒産を避けるには、すぐに銀行から追加融資を受けなくてはならない状況だった。
「折阪君、持ってきた?」
 水野さんに銀行を紹介してほしいと依頼したところ、まずはBS/PLを持ってきてほしいと言われた。経営状況を見てくれるというのだ。
「初年度は売り上げが五千万円でした。二年目は一億。そこまでは順調だったんです。ところが、その後四年連続一・三億で伸び悩んでいます」
「従業員数は?」
「一年目は三人。今は二十人です」
 水野さんは黙って書類をめくっていた。
「折阪君は、社長としてどんな仕事してるの?」
「営業行ったり、メンバーとミーティングしたり……」
「メンバーはどんな仕事してるの?」
「ええと、同じです。営業とかミーティングとか。でも、僕が一番売り上げていますね」
「君が今やってるのって、社長の仕事じゃないんじゃない?」
「社長の仕事……?」
「成績が上がっていないのは、仕事を渡せてないんじゃないかな」
 仕事を渡すとは、どういうことだろうか。僕は社長として一番頑張っているつもりだったし、メンバーも忙しく働いている。
「これ見る前からそうだろうと思っていたけど、リストラしたほうがいい」
 僕は、その言葉を聞いて愕然とした。リストラからは、ずっと目を背けていたからだ。
 もともと、学生の頃の経験から、メンバーは定着しないものだと思っていた。だから起業してまもなくは、社長の自分より、メンバーに給料を多く渡していたほどだ。高い年収でしかメンバーをつなぎ留められないと思っていた。ただそれが、経営を圧迫することにもつながっていたのだろう。
「リストラ、ですか」
「そうだね、辛いけど。従業員を半分にすれば、しばらくは大丈夫だよ」
「半分も……?」
「銀行から借りるより、そっちが先だよ。辛いけど、心を決めるしかない」
 自分では決められなかった決断。水野さんが告げてくれたことで、正直、肩の荷が下りる思いがした。一緒に働いていたメンバーに辞めてもらうのは辛いが、重たい荷物、毎月の多大な出費が減り、身軽になる。

 僕は、腹を据えた。

文 栃尾江美
絵 山本麻央