あの背中を追って-第1回

このコラムについて

ミンワとは泥や失敗やこっぱずかしさ、
カサブタやひだひだの一杯ついた本当の物語。
創業や商品開発、危機的状況を乗り越えるたびに新しく生まれています。
ミンワの新作は現代の企業における新しいミンワを紹介していきます。

毎週木曜日配信のミンワの新作。
今週から株式会社ジースタイラスのミンワ「あの背中を追って」をお届けします。

プロローグ

 もうこの本を読むのは何度目だろう。
 狭いワンルームの床に寝ころび、ハードカバーの単行本を開いた。
 ノンフィクション作家が世界中を周り、現地の人と出会い、その人たちの食すものを、危険を顧みず体に取り入れる。現場に足を踏み入れることでしか、世界を知ることはできないし、世界を知ることなしに、人を救うことなんてできない。
「なんてかっこいいんだ」
 新聞の連載を単行本にしたこの本は、大学生だった僕の価値観をすっかり変えてしまった。

 この本に出合うまでの僕は、ひたすら勉強に明け暮れていた。幼いころから、地方公務員だった親を見て育った。彼らは世の中の役に立っていたように見えた。それを見て、自分も会社に勤めるよりは、公務員として働きたい。それならば、国家公務員を目指してみよう。そう思って予備校にも通っていた。
 大学二年になると、OB訪問を始めた。同じ大学を卒業して官僚になった人たちに会いに行き、話を聞いた。
 ところが、なぜかぴんと来ない。新しいことに挑戦している人にはほとんど出会えなかった。担当している仕事を聞いても、なんだか地に足が付いていないような気がする。この違和感は何なのだろうか。
 だからといって、今さらサラリーマンを目指すのはどうも気が進まない。なんにしても、「サラリーマン(=給料をもらう人)」という響きがよくない。

 そんな時に出会ったのがこの本だ。しっかりと地に足が付いている。現地で現地のものを取り込むことでしか、本当のことを感じえない。
 あおむけで読んでいると、本を支える腕が疲れてきた。仕方なく、横向きになり腕を床に付ける。多少は楽になった。
 開いているページには、原発事故の起きたチェルノブイリの近くで、放射能に汚染されている食物を食べる様子が描かれていた。そうして、体で現場を感じながら、今起きていることを取り入れる。それはどんな気持ちがするのだろうか。
 この本を初めて読み終えた後、偶然知った著者の出版講演を聞きに行った。現場を訪れて事実を伝えようとする意気込みと努力、使命感のようなものを強く感じた。仕事に妥協しない姿は、これまでに出会った社会人とはレベルが違う。信念を強く持っている彼を見て、「僕のロールモデルだ」と思った。
 その講演のすぐ後、僕は公務員試験のための予備校を辞めた。


文 栃尾江美
絵 山本麻央