沈みゆくボート-第8回

このコラムについて

ミンワとは泥や失敗やこっぱずかしさ、
カサブタやひだひだの一杯ついた本当の物語。
創業や商品開発、危機的状況を乗り越えるたびに新しく生まれています。
ミンワの新作は現代の企業における新しいミンワを紹介していきます。

毎週木曜日配信のミンワの新作。杜若経営法律事務所の「沈みゆくボート」。
前回の第四章「出版にまつわる大炎上」の続きをお送りします。

第四章 出版にまつわる大炎上

売れ行きの出だしはなかなか好調だった。これまで講演会に来てくれた社労士もたくさん読んでいるようで、セミナーのたびに評判を聞く。
「本の内容に感動して事務所まで会いに来てくれた人がいたんだって? 」
岡が向井に尋ねた。
「そうなんですよ。社労士の先生に『ずっとこういうことが言いたかったんです! よくぞ言ってくれました! 』って言われました。わざわざ関西の方から来てくださったんです。こういうの、嬉しいですよね」
そんな上向きの雰囲気が傾いてきたのは、ウェブメディアに内容の抜粋が掲載されてからだった。一部をウェブに掲載することで書籍の売り上げが上がると聞いた向井は、編集者の川口から打診があるとすぐさま快諾した。
無料で読めるウェブメディアは、労働問題に関係のない人も興味本位で見る。また、記事を読む人は圧倒的に労働者が多い。弁護士も、企業側より労働者側の弁護をしているほうが多いのだ。
ウェブで公開された数日後、向井のメールボックスに編集者の川口からメールが届いた。件名の最初に「FW」が付いている。
「こんな感想が寄せられました。あまり気にしなくてよいと思いますが、念のため転送しておきます」
下にスクロールして転送メールを読むと、ものすごい長文に、労働者側からのクレームが書かれていた。ウェブの記事を読んで、〝労働者の敵〞だと思われたらしい。向井はなにか、胸のあたりが苦しくなるような思いがした。
その後、アマゾンのレビュー欄に、「著者の見解はかなり偏っている」「トラブルを誘発する」などの書き込みも見た。ツイッターで向井の名前や記事タイトルを検索すると、かなりの数のネガティブな意見が見られた。
「この弁護士、ひどい」
― ― どこがひどいんだよ。
「こんなことを推奨するなんて、社員をバカにしてる」
― ― だから、推奨はしていないって。
なにか書かれるのを見るたびに、誤解されていると感じる。つい反論が心に浮かぶ。ところが、その反論が相手に届くわけでもないのだ。ネガティブな意見に同調するように、どんどん拡散されていった。これが「炎上」ってやつか… … 。