ほんとうは教えたくない とうかいのいまはむかし-第10回

このコラムについて

ミンワとは泥や失敗やこっぱずかしさ、
カサブタやひだひだの一杯ついた本当の物語。
創業や商品開発、危機的状況を乗り越えるたびに新しく生まれています。
ミンワの新作は現代の企業における新しいミンワを紹介していきます。

毎週木曜日配信のミンワの新作「本当は教えたくないとうかいのいまはむかし」。
前回の第五章から引き続き、今週は最終章「エピローグ」をお送りします。

エピローグ

「はい、社労士法人とうかいです」
入社して二年目になる岡本が電話を取った。普段は、事務所の外を飛び回っているばかりの久野だが、この日は珍しく事務所で仕事をしており、岡本のやりとりを聞いていた。
「いつもお世話になっております。はい、私が承ります。遺族年金ですか?それなら…… 」
久野は、岡本の受け答えを目にして驚いていた。
会社で打ち出している「成長」というキーワードに惹かれ、入社してくれた女性社員。前職が公務員と、全く違う職種だったが、入社してゼロから学び続けている。社労士の資格取得の勉強をしながら、業務からもどんどん吸収している。

これまで、会社の成長や顧客の成長のために、社員が成長すべきだと思ってきた。ところが、順番が逆だった。それは、社員とともに走ってみなくては実感できないことだった。
社員を成長させたい。それが最初にあって、結果として会社の成長が付いてくる。顧客の人材育成や採用案件に関わり、深く実感したことだ。会社のために、人材が犠牲になってはいけないのだ。

また電話が鳴る。
「はい、社労士法人とうかいです。人材育成のお問い合わせですか?  はい、私が承ります」
人材研修の未来塾をさらに発展させ、人材育成のプログラムも作った。その問い合わせの電話だった。
人を大切にして、育成するから、会社が伸びる。自社も顧客も、そうやって成長していけばいい。ぎりぎりの状況を抜け出し、多くの価値を提供できるようになれば、長時間労働も解決できる。
電話を切り、久野の席に来て報告を終えた岡本が言う。
「久野さん、私も今度、山に登って夜景を見に行きたいです」
誰から聞いたのだろうか。
これからはひとりでなく、社員と一緒に白山へ登り、今の自分の思いを伝えてみよう。


文 栃尾江美
絵 山本麻央